人に頼みごとをする際には、人間の心と行動を理解して交渉する心理学が有効です。
相手の行動を先読みし、段階的に要請したり、譲歩する形に誘導したりすることで、自分の要求を通す確率を上げることにつながります。
そこで今回は、ビジネス交渉術として優れている譲歩的要請法「ドアインザフェイス」について、成功確率や具体例をご紹介します。

ドアインザフェイスとは
ドアインザフェイスの最大の特徴は、あえて大きな要求から交渉を始めるところです。
相手が断るであろう大きな要求を最初に出して、案の定断られてから、代替え案として小さな要求を出します。
これを「譲歩的要請法」といいますが、大きな要求から小さな要求に譲歩した相手に対し、人は歩み寄ろうとする心理が働きます。
その心理を上手に活用することで、成功率を上げるビジネス交渉術が、ドアインザフェイスです。
ドアインザフェイスで成功率が上がる理由
交渉相手にドアインザフェイスを使うことで、成功率が上がる理由は主に2つ挙げられます。
まず1つ目は、「返報性の原理」です。
返報性の原理とは、施しを受けた相手に対して、お返しをしなければいけないといった心理が働くことをいいます。
ドアインザフェイスの場合は、相手が譲歩した様子をみて、こちらも譲歩する形で返そうとする心理に誘導する形です。
そして2つ目は、相手に罪悪感を持たせることです。
一度頼みごとを断ると、人は断った相手に対し、申し訳ないといった気持ちが生まれます。
この気持ちを抱かせてから、あえてもう一度、譲歩可能な頼み事をすることで、罪悪感から受けざるおえない心境へと導かれます。

ドアインザフェイスとフットインザドア
ドアインザフェイスと似たビジネス心理学の1つが、フットインザドアです。
フットインザドアは、ドアインザフェイスとは真逆の交渉術になります。
最初に小さな要求をし、段階的に要求を大きくする「段階的要請法」です。
受け入れやすい簡単な要求から最初に通すことで、相手が大きな要求をしても断りにくい状況を作り出します。
この2つの心理学は、相手が気がつかないように駆け引きを行うといった点が、大きな共通点です。
実験でわかるドアインザフェイスの成功確率
ドアインザフェイスは、ロバート・B・チャルディーニ氏によって、実験が行われています。
彼は、200万部を超えるベストセラー本となった「影響力の武器」の著者で、アメリカを代表する有名な社会心理学者の1人です。
実際に行われた実験では、まず最初に大学生に対して、次のような頼みごとをします。

週に2回、非行少年を2年にわたりカウンセリングしてほしい
すると、被験者となった大学生は全員拒否しました。
その後、再度次のような頼みごとを行います。

では、ボランティアで2時間ほど非行少年グループを動物園に連れて行って欲しい
このように、譲歩的要請法であるドアインザフェイスのテクニックを使ったところ、50%の大学生が承諾しました。
なお、ドアインザフェイスのテクニックを使わずに、最初から動物園に連れて行ってほしいと頼みごとをした結果、承諾した大学生はたったの17%です。
この実験結果を見るかぎり、ドアインザフェイスは交渉術として、かなり有効なのがわかります。
テクニックを用いることで、3倍近く成功率を上げることに成功しました。
ドアインザフェイスの具体例
ここからは、実際にドアインザフェイスを使った、ビジネスにおける具体例をみていきましょう。
上司が部下に残業を頼みたい場合

本日から1週間、毎日2時間残業してもらえますか?

申し訳ありません。。1週間毎日はちょっと難しいです。

では、明日だけ2時間残業してもらえますか?

明日だけであれば大丈夫です。
残業は、原則として時間外労働になるため、この会社では強制ではありません。
いくら上司の頼みであっても、部下の気持ち1つで断ることが可能です。
しかし、フットインザドアを利用したテクニックを使った場合、1週間の残業を1日に譲歩してくれたという「返報性の原理」が働き、上司のお願いを承諾する確率がぐんと高くなります。
セールスに応用する場合

Aプランは月額料金が高めですが、ユーザー満足度が高く、アフターケアも充実しているのでおすすめです。

予算がオーバーしているからちょっとなぁ。。

では、月額料金がAプランよりも手頃になるBプランはどうでしょう?最低限のアフターケアも兼ね備えているので安心です

そうだなぁ。。予算がギリギリだけど、アフターケアも問題なさそうだから、こっちにする。
セールスにドアインザフェイスを使う場合は、あえて高額なプランを先に提示してください。
予算オーバーで断ることを見通し、最初から本命のBプランをあえて2番目に紹介することで、大きな要求から小さな要求へ譲歩的に移行する形が成立します。
最初からBプランを推奨するよりも、お客様が断りにくい状況を作り出してからBプランを勧める方が、契約に結びつく確率は高くなるでしょう。

まとめ
ドアインザフェイスは、大きな要求から小さな要求へと譲歩的に要請し、返報性の原理と罪悪感によって、交渉の成功を高めることができるテクニックです。
最初の段階で相手の気分を損ねてしまったり、次の要求を出すまでに間が空きすぎてしまったりすると、成功する確率が低くなります。
また、大きな要求を何個も用意すると、断ることに慣れてしまい、罪悪感が薄れます。
相手に悟られないように、テンポ良く交渉するのが成功への近道です。
ビジネスにおいてドアインザフェイスを活用する際には、ぜひ参考にしてみてください。